新「学習指導要領」とは何か

  • 2008/10/31(金) 14:52:48

本協議会機関誌「郷土教育」第591号(08.10.1発行)より

新『学習指導要領』から見えてくるもの

                         T・N

 文部科学省 (以下文科省) は、小・中学校の教育内容を示す「学習指導要領」を改訂し、今年 (2008年) の3月28日に告示しました。
 この「告示」は、すでに2月に出されていた文部科学大臣の諮問機関「中央教育審議会」 の改訂案を大きくこえる異例な修正をしたものでした。この修正点に新「学習指導要領」 の本質があらわれています。さらに7月、文科省は、韓国政府がふれないように要請していた「竹島」問題をあえてとりあげ、韓国との対立を煽り、日本の領土であることを強調する 「解説書」 を公表しました。

 強く「愛国心」教育をすすめるもの

 政府文科省は、2006年、「教育基本法」を愛国心教育・能力主義教育を進めるものへと改悪しました。今回改訂された新 「学習指導要領」には、この改悪「教育基本法」を受けて、是が非でも学校教育で子どもたちに「愛国心」を植え付け、お国のために命を投げ出す国民へと育成するという政府文科省の意図が露骨にあらわれています。
 また、新「学習指導要領」では、家族愛、郷土愛、伝統が強調されています。これらは、「愛国心」へもっていくための布石です。なぜなら、リストラや長時間労働、派遣労働で家庭を破壊し、ふるさとでは定住できない経済構造をつくり、貧窮を広げてきたのが、小泉内閣以来の自公政府だからです。
 では、なぜ提唱するのでしょうか。伝統に親しませながら、家族・郷土・国という紐帯をつくりだし、国のために命も投げ出す「愛国心」へと繋げようとしているからです。
 さらに、昔話や神話の読み聞かせをしてナショナリズムを煽り、「音楽」では、「君が代」 を「歌えるように」指導しなければならないと改訂しました。また、学年ごとに戦前からの文部省唱歌と日本古謡の「歌唱共通教材」があります。
  ここに戦後作られた曲や外国の曲が一つもないことに私は強い違和感を覚えました。また、この中の一曲「われは海の子」は、教科書では歌詞は三番までと指定されています。後の歌詞に戦争を賛美する内容があるからです。しかも、今回1〜4年生までは「歌唱共通教材」全曲、5・6年生は4曲中3曲と、現行より必修曲の数を増やし、音楽教師の選択する余地を無くしています。
 文科省は、教育委員会などを対象とする新「学習指導要領」の説明会で、「学校行事の一環として靖国神社を訪問してもよい」という内容の政府答弁書をわざわざ配布しました。
 ここまできているのかという思いです。

 「道徳教育」の強化

 内容としては、前に述べた家族愛・郷土愛・愛国心・伝統を愛することとともに、「社会や集団のきまりを守ること」が重んじられ、「みんなのためにはたらく」事が入り、「公」が強調されています。
 そして、「道徳」の時間ばかりではなく、「あらゆる教科、外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動における道徳教育と密接な関連をはかりながら」指導することになっています。そのため、校長の方針のもとに「道徳教育推進教師」を新設し、それが中心とって、全教師が協力して行う、と上からの体制が強化されました。

 「生きる力」の形成=経済界がのぞむ能力主義の教育

 改悪「教育基本法」では、≪教育の目的≫に「人格の完成」をうたってはいますが、新しく「職業及び生活との関連を重視し・・・」という項目を入れています。これは、国際的な経済競争に勝つために必要な能力を開発するということです。そのために、「基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させ」るため、全員に「反復・繰り返し学習」をさせる。そして、教える内容の基準を示した歯止め規定を廃止して、成績上位者には、より高度な学習をさせるというものです。
 現在、一部の国が参加して行われているOECDОECD(経済開発協力機構)のPISA型テストでは、日本の子ども達に不足しているのは、思考力・判断力・表現力(仕事をするための)だといわれています。そのため、劣っている学力を是が非でも早急に向上させるように、授業内容と時数の増加がうちだされています。
 このように、一方では、少数のエリートを養成し、大多数の子どもには、それなりの学力をつけ、「実直な精神」(※)をもって「国」のために、命を投げ出して尽くす人づくりをめざしています

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 ※三浦朱門氏 (教育課程審議会前会長) は2000年に次のように言っています。 『できん者はできんままでけっこう。戦後50年、落ちこぼれの底辺を上げることばかりに注いできた労力を、これからはできる者を限りなく伸ばすことにふりむける。百人に一人でいい。彼らが国を引っ張っていきます。限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえばいいんです。』
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 教育現場では今、新「学習指導要領」の教員への伝達講習が従来にまして強力に行われています。しかも、聞くところによれば、質問には一切答えず、「上から決まってきていること」という一言で終わりにしている教育委員会もあるそうです。
 また同時に現場の教職員には、人事考課や免許更新制などさまざまなしめつけが強化されてきています。
 これから新「学習指導要領」による教科書の作成・検定・採択が始まります。
 私は、自分の想像を超えて、戦争への道が急ピッチで準備されていることを感じました。多くの人たちがこの新「学習指導要領」の本質を学習し、教職員も保護者も市民も、みんなで声をあげていく必要があると強く思っています。